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コラム
 
コロナ(COVD-19)が映す医療経営の問題
メディサイト 松村 眞吾

 本稿執筆時点(2021年5月)でコロナ収束の見通しは立っていない。ワクチン効果は大きく期待し得るが、日本においては接種の遅れが目立ち、大阪や兵庫南部などでは「医療崩壊」といわれる事態になっている。いろいろ情報を集めて、日本の医療体制が抱える課題を照らし合わせると、何でも「変異株の猛威」と考えるべきではない、という結論に至る。

 日経新聞(5月1日付夕刊)は第一面で「非効率 改革先送りの代償」という見出しを掲げ「『なんちゃって急性期』増殖」が背景にあると書いた。「なんちゃって急性期」という言葉は、筆者の仕事仲間の間でもよく使う。地域医療構想における病床再編成の動きでは、急性期病床の過剰と回復期以降の病床不足が言われたが、一部病院経営者などの間からは「コロナ禍になって急性期病床が過剰とは言えなくなった」という議論が出ている。急性期を名乗りながらコロナ受入れをしない民間病院も多々あり、国公立と公的病院に負担が集中するという事態はある。受入れをしない病院の言い分は「コロナ以外の患者を受け入れて貢献している」というものだ。

 日本の病院の世界では、官の財政難と西洋医学普及促進の事情が重なった明治期以来の民間依存の歴史がある。欧州などと異なり、日本では民間が地域医療を支えてきた。だから官のコントロールが効きにくいという事情がある。といえども、筆者らが見てきた「なんちゃって急性期」の実際は、形ばかりで、そう言われても仕方ない病院が多いのは否定できない事実であり、しかも経営権にこだわるばかりに病院同士(さらに病診)の連携も十分でなく、群小の艦隊で空母艦隊に戦うような現実も否定できないと考える。

 独立経営を目指す民間中小病院が地域医療の主体でやっていけるのだろうか。コロナパンデミックは集約された対応を必要とした。コロナが収束したら、次は少子超高齢化のさらなる進行であり、人口減少が医療需要の減少を招くことが予測されている。超高齢化は疾患構造の複雑化を意味する。2019年の日本医療・病院管理学会学術総会では「人口減少は、地域医療において重要なのは病院間競争ではなく地域全体で医療を考える必要性である」という議論が聞かれた。地域医療連携推進法人の日本海ヘルスケアネットは人口減少→医療需要減少の中での連携事業体として、その成果が語られる。

 前記記事の中で、日本病院会の相沢孝夫会長は「ケアミックス病院が多い」と指摘している。中小規模でケアミックスであれば、当然のことながら感染リスクは高まる。専門性についてもブラッシュアップされたものかどうか疑問が残ってしまう。それなりに頑張っていることは認めたいが、民間中小病院が、地域医療全般を競い合いながらマネジメントできるとは思えない。

 退院できるのに転院先が見つからず病床が空かない、在宅医療の役割に注目したいのに急ごしらえで体制整備を行なおうとしている(ワクチン接種の優先度は後ろのまま)、中小病院の多くも併営する高齢者施設のクラスター対策が遅れているなど等の問題が山積する。入院・療養調整にも大きな影響を及ぼしている。ワクチン接種促進と感染拡大対策は最重要喫緊課題であるが、病院、いや病院だけでなく診療所を含めた医療経営全体の問題と課題について、やるべきことを急ぎやっていかなければならない。

 緊急課題としては、業務プロセスを緊急に見直し浮いた金を人資源に投入すること(給与・賞与抑制など愚策である)、デジタル化により情報共有リアルタイム化などを図ること(既存アプリで使えるものも多い)などがあり、何よりも地域全体で連携するという体制づくりが重要である。人口減少は続く、したがって人出不足も深刻化する、だからコロナ禍は近未来の状況を先取りしただけのものである。本気で地域全体を考えた医療体制づくりを、能動的に取り組んでいかなければ個別病院の生き残り、勝ち残りなどあり得ないのではないか。

 経済学者の宇沢弘文は、医療などを「社会的共通資本」と位置付けた。コロナ禍で傷ついた国家財政の後遺症は重いだろう。人口減少の衝撃、医療需要の減少もさることながら、特に担い手不足=人手不足の形となって医療経営に襲いかかる。民間主体をどこまで誇って行けるのか。地域全体でマネジメントを考える必要性を、今、理解、認識して、連携をキーワードに取組みを広げて行かなければならない。状況を直視すれば、そういう考えに至る。

 現場の悲鳴に外出自粛を叫ぶだけでは問題課題解決にはならない。医療従事者のストレスマネジメントを、美味しいものを食べホッとできる時間を提供するだけでも、それらは医療経営に関係する様々な立場の人間が考え発信すべきことである。

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