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コラム
 
 医療機関を経済性評価する際の困難性について 
  株式会社 立地評価研究所 
                         不動産鑑定士 芳賀 美紀子氏

 医療機関を経済性の観点からみた評価が必要とされる局面は、医療機能強化を目指した大型設備投資、医療法人の新たな創設案件、破綻病院の再生等の場合がある。(本稿では狭義の医療機関として病院を取り上げる)。
病院については、収益の安定性やコスト削減等の経営改善効果の大きさなどから、ファイナンスの世界からも注目されてるアセットである。現時点では世界的な金融危機にあるものの、収益重視への体質転換とキャッシュフロー経営の浸透、不動産証券化等のスキームを利用した資産の流動化によるオフバランスが有効に働くことが予測され、その経済性評価の重要性は誰もが認識するところである。
しかし、医療業界特有の制度や制限などにより、病院の経済性評価にあたって他のアセットにはない留意点や問題点も発生する。本文では、そのいくつかについてご紹介する。

 財の経済価値を評価する場合一般には下記の考え方が用いられる。この考え方はM&Aなどの際の企業評価やプロジェクトファイナンスの際のプロジェクト評価、収益用不動産評価などに共通する考え方である。
(1)評価対象財を取得する際の調達コストに着目して評価する
   コストアプローチ(原価法)
(2)同種財の取引事例との比較から求めるマーケットアプローチ(比較法)
   上場企業の株価との比較から同業種の企業の評価額を求める例などがある。
(3)インカムアプローチ(収益法)
   評価対象財が上げるであろう将来キャッシュフローを予測し、これを現在価値に割り戻した合計額をもってその評価額とするもの

 冒頭で病院経営に関してキャッシュフロー重視の動きについて触れたが、経済性評価をするに際して、キャッシュフロー予測が決定的に重要な要素である。病院収入の大半を占める診療報酬債権は貸し倒れリスクのない優良債権であり、また診療報酬体系も全国一律で価格競争がない、また多くの都市では増床規制により新規参入リスクが少ない等一見キャッシュフロー予測は容易にも見える。ところが次のような課題があるため、実際にはキャッシュフロー予測は困難を極めることとなる。

・医師の安定的確保が困難
医師の確保は病院の存続を左右する問題である。安定的な確保のためのパイプラインの有無や、医師定着のための職場環境の評価などがキャッシュフロー予測にあたって重要となるが、実際にはその判定が難しい。

・経営と医療行為の分離が困難
医療法人の経営は医師に限られ、外部からの病院経営への関与が制約される。したがって経営改善を想定したシミュレーションでは現実性に乏しい場合が多い。

・訴訟リスクの大きさ
昨今の訴訟件数の増大により、病院の訴訟リスクは年々増加しているが、訴訟リスクは保険でどの程度までカバーできるか不透明な診療分野がある。

・バックアップオペレーターの確保が困難
用途の特殊性から、病院以外の用途転換が困難であるにもかかわらず、医療法人の交代を想定できないため、安定的な収益想定が困難。

・規制業種であること
医療法等による規制産業であるため、業界の収益構造も医療行政(診療報酬制度)に依存しており、制度変更によるリスクを持つ。

病院評価では、以上の問題点・特殊要因を内包しているため、過去の実績値や現在の医療行政を前提にしたデューデリジェンス(詳細調査)では将来予測に限界があり、またこれらのリスクを反映すべきキャップレートや割引率査定には、データの閉鎖性などから、客観的な数値を査定するには相当な困難が伴う。このような点で収益予測の困難性は新興企業の企業価値評価に近いものがある。

                             (以上)

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