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コラム
 
 失われていないか?医療現場の思考力

医療技術の進歩の裏で懸念されること
 最近の電化製品を見ていると、人間がミスをしないようにあらゆる方法で知らせる仕組みが組み込まれている。例えば、冷蔵庫を空けっぱなしにするとブザーで教えてくれたり、お風呂のお湯はりに至っては、完了を『お風呂が沸きました』と言葉で教えてくれるなど。このように器械が危険を回避し私達に安全安心な生活を提供してくれている。このような便利な機能を有した道具が無かった時代は、主婦は複数の家事の進捗管理をしながら起きうるリスクを予測しそれが起きないように思考していたはずだ。

 さて医療現場での道具の発達はどのような影響をもたらしているだろうか。医療機器の進化に伴い医師は、最新の医療機器で手術をしたいと願うだろう。それが導入された場合、医師だけではなく他職種もチームとしてその医療機器の取り扱いを知る必要が出てくる。近年、このような医療機器の管理は臨床工学技士が行うようになっている施設がが増えている。医療技術の進歩に伴い新たな専門職が生まれたのである。臨床工学技士は医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作や保守点検を行う役割であるが、配置数がまだ少ないこともあるせいか、医療機器の取り扱いミスが多く報告され始めた。しかし、この原因は数の問題だけではなく、○○は××の仕事など役割が専門分化してしまった事も一因ではないだろうか。「専門化する」ということは、その分野は「お任せ」することになり、専門職以外はそこの能力は退化していく。

思考しないことの選択が起きている
 これは、医療現場のあらゆる場面で起きている。例えば、マニュアル化。マニュアルは、誰もが同じ方法で実施するように、その裏を返せば「考えなくてもよい方法」ともとれる。
効率性を上げるために、専門分化、マニュアル化などが実施されるが、その背景で、我々はその部分について思考しないことを選択したのである。

学習する組織へ
 医療の現場は多忙である。であるから、システムとして流れていく標準化と言う作業が必要になった。また、何か問題が発生するとその場で瞬時に解決しなければならない。であるから、経験と勘により解決策を導くことが多い。このように、専門化し標準化されやマニュアル化されていくと個人の知識や経験知が減るばかりか、思考することが少なくなってきているのではないか。
 最近、学習する組織作りが必要であると言われている。ピーター・センゲは「Learing Organaization:学習する組織」を構築するものとして3つあげている。(1)志を立てる力・・・組織と個人のビジョン (2)複雑性の理解力 ・・・システム思考 (3)共創的な対話力・・・メンタル・モデルとダイアログ。
 この場で詳細の記述は略するが、要は、経験と勘による表面的な解決策ではなく、個人と組織が生成的学習により、組織変化を起こしていく時代にきているということである。それは医療の現場にこそ言えることであり、そろそろ、専門職、部門の垣根を越えた生成的学習が必要とされる時代にきているといえよう。


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