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コラム
 
医療経営の現場、福祉経営の現場
メディサイト 松村 眞吾

  医療福祉関係のセミナーを企画している会社の担当者が呟いた。「ここのところ、地域包括ケアシステムをテーマにするセミナーへの関心が低くなってきていますね」。これは現場での皮膚感覚に一意する。多職種が集まって盛り上がり議論が進んで、実践へ一気に動く、という雰囲気はない。元々「地域包括ケアシステムって何?」というのが一般的な理解であるし、国自体がモデルはないとしている。理念より言葉が先走りしていたという実際がある。

 制度と現場のかい離が大きくなってきているように思う。介護事業の業界を見れば、ここ数年でのプレーヤーの交代に目を見張る。損保ホールディングス(SONPOホールディングス)が大手として登場するなどと、誰が予想できただろうか。2015年介護報酬改定はマイナス改定となり、事業者の淘汰が始まった。その結果が少しずつ見えてきている。医療の世界でも地域医療連携推進法人制度のスタート、自治体病院の経営改革の中で経営統合の方向が打ち出されている。それに対する、現場のもやもや感が出てきているように感じる。

 今年4月の診療報酬改定で、急性期病院を中心に、病院業界は「連携」強化に走り出した。急性期の絞り込み、地域包括ケア病棟への注目など材料はいろいろある。一方、在宅医療は施設系が厳しくなって、診療所関係は「無風の改定だった」として目立った動きがない。「かかりつけ」機能について、薬局関係に動きはあるが、診療所はさほどでもない。社会医療法人の一部などは機能強化と複合化を考えて経営規模拡大に動くが、多くの医療法人は経営権を差し出す気は皆無に等しいだろう。地域包括ケアシステムの主要な担い手であるはずの診療所の動きは鈍く、中小病院は自らの役割に気付くに至っていない。

 医療の業界は自己完結の発想があり、一部の医療者と介護者が「顔の見える」関係構築に動いている段階に過ぎない。地域医師会は重要な役割を持っているはずだが、担当理事レベルでは、地域包括ケアシステムの形が見えず悩みが深まるばかりという状況がある。国は「連携」から「統合」に向けて方向付けようとしているが、現場の感覚とはちぐはぐとものとなっている。何が欠けているのか。

 SONPOホールディングスでは、ワタミの介護事業を買収しメッセージに出資、一気に介護事業大手に駆け上がったが、業界の「素人」はリスクマネジメント一つをとってもどうするのだろうか、と思わせる感じもあった。注目されるのはマネジメント会社のSONPOケアの設立である。連携の現場も経営統合の現場も利害調整、信念対立が絡む職種間コンフリクト、経営権問題などのマネジメントが難しい。かかりつけ医診療所で外来と在宅を一体的に行なえと言われているが、そのマネジメントですら難しい。制度改革はマネジメントを考えていない。民間企業のSONPOは気付いていたというわけだ。

 地域包括ケアシステムは、医療と介護を横串しにして、さらに障がい者福祉などと一体的に考え行動して、さらに経済界も含めた地域資源との協働を考えていかなければならない。医療と介護の機能を統合してボランティアに手伝ってもらうシステムのことではない。資源の調達と投入、職種間、利害関係者間の調整、やり繰りを担う「マネジメント」がなければ何もできない。マネジメントのプロがあってこそのケアシステムであり、医療現場、福祉現場にはマネジメントのプロが居なくてはならない。「経営」や「マネジメント」と言えば「金儲けのことか」となる。とんでもない。現場を、組織を、地域を回していくことであり、マネジメント機能を無視して改革はない。

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