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コラム
 
診療報酬改定の概要解説(厚労省)から見えてくること
メディサイト 松村 眞吾

 2020年(令和2年)診療報酬改定の全体像が少しずつ明らかになってきた。以前から、厚労省はいわゆる2025年問題についての対応は2018年改定で手当て済みだとの姿勢であったが、今回の改定は比較的、大波なき内容となった。方向性は以前から変わっていない。
ただ「働き方改革」が前面に打ち出され、オンライン診療拡大の企てがかなり見えてきたと言えるだろうか。

 2025年に向けての問題・課題は、団塊世代の後期高齢者入りによる医療費の増加が中心ではない。支える世代の減少が深刻化していくということにある。そして超高齢化による地域でのケア体制の確保(地域包括ケアシステムの構築)である。支え手不足への対応として勤務医の負担軽減など「働き方改革」があり、生産性向上を目指してのICT(情報通信技術)活用推進がある。地域包括ケアシステム構築は、急性期のさらなる機能明確化と地域包括ケア病棟の強化などに示されている。

 幾つかの点に触れておきたい。まず「働き方改革」については、病院勤務医の負担軽減=地域における急性期機能の維持と読めるのが「地域医療体制確保加算」であろう。機能分化は既定の路線であるが、急性期病床が過剰とされる一方で地方の病院勤務医の確保がより困難化=急性期機能の維持不能につながりかねない状況がある。急性期病院の在り方を再考したい。安全管理に関する会議は「対面」でなくても可とするなどICT活用を盛り込んだことに注目し、オンライン診療の要件緩和(将来に向けてオンライン診療拡大)をよく読み込んでおきたいと考える。オンライン診療については情報収集を強化していきたい。他業種に仕事を移管するというタスクシフティングなどは、各職種におけるモチベーションの視点も含めて検討されたいと思う。

 地域包括ケアシステム構築・地域医療の関係はどうか。急性期における重症度、医療・看護必要度の厳格化が予想通り進んだ。急性期の厳格化はさらに進む。救急医療管理加算が厳格化されたが、形だけの算定は出来なくなっていく。DPC機能評価係数Uに影響するので要注意だ。今回、入院評価関係で注目したいのが地域包括ケア病棟関係である。急性期は厳格化されるが、もはや地域包括ケア病棟を開設して逃げ道を作ることが出来なくなる。400床以上の病院における地域包括ケア病棟新設は不可となった。院内急性期病棟からの転棟に制限がかかる。地域包括ケア病棟1及び3における「自宅等」からの入院割合要件は15%に上がった。中小病院は、地域包括ケア病棟を核とする在宅支援などサブアキュート路線を明確化していかなければならない。

 200床以上400床未満の中堅病院は、機能分化の結果、地域中小病院及びかかりつけ医支援機能が求められていくだろうか。あまり議論されないが、地域包括ケア病棟を持つに相応しい規模というものがある。中小病院が地域包括ケア病棟を維持していくのは、実は大変なことだ。究極の混合病棟である地域包括ケア病棟の運営には、総合診療医機能を有する、少し余裕ある医療資源の存在が求められていく。中堅病院は、医療資源という面から見て、地域包括ケア病棟を有効に活用できる立場にある。300床規模の多い自治体病院(市民病院など)は、急性期一般入院料1(7対1看護配置)を追求し続けるかどうかも含めて、役割と機能の再検討を迫られていく。400床以上の大規模病院と同じような超急性期機能か、地域を支える一般急性期などの新しいケアミックスなのか、改定に込められたメッセージを読み解きたい。

 診療所など、かかりつけ医機能はどうなっていくのだろうか。今回も地域包括診療科加算の要件緩和が行われるが、算定する診療所が増えるとは到底、思えない。厚労省も効果があるとは思っていないだろう。医療資源の乏しい地域における在宅療養支援病院の要件が280床規模の病院までと緩和されたが、かかりつけ医機能の担い手は中小病院にという認識を持った方が良さそうである。上述のように混合病棟である地域包括ケア病棟の運営は難しい。しかし在宅医療などを手がける医療機関はバックベッドを持ちたいと考える。自ら在宅を行ないつつ地域包括ケア病棟を持つ、というのが一つの在り方であろう。診療所は、どうしていくべきか。人口減少で外来需要が減っていく。病診連携を軸に今後の経営を考えていきたいと考える。

 歯科と調剤関係は別の機会に譲りたい。ただし、薬剤師の対物業務から対人業務への移行という路線が強調されているように、調剤関係も、かかりつけ重視の方向が強化されていく。ただし昔の家族経営薬局が生き残る余地はない。ここでも医療資源に余裕ある体制が求められている。

 これで日本の医療は大丈夫なのかなあ、というのが正直なところの印象であるが、「連携」を強化しながら、医療資源を有効に活用していく経営を考えていくべき時機にある。

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