家庭医のクリニックづくりと、そのネットワークを支援しています

ホーム 会社概要 事業概要 お知らせ コラム リンク
コラム
 
コロナ感染拡大が医療経営に与える衝撃
メディサイト 松村 眞吾

 コロナ感染拡大の収束が見通せない状況が続いている。4月8日に緊急事態宣言が発令されて以来、外出自粛が広がるとともに、新型コロナ肺炎(COVID-19)以外の患者も受診控えに走り出している。外来では、耳鼻咽喉科や小児科で5割減、内科では3割減という状況だ。東京都台東区の永寿総合病院での大規模クラスター化など院内感染の広がりも衝撃的だったと言えよう。そして医療現場での不安の広がり、医療者の疲弊などヒトの問題も大きくなっている。マスクですら不足するという感染防止のための物品不足も深刻な状況が続く。こういう状況に「医療経営」の出番はあるのだろうか。

 当面の喫緊課題は新型コロナ肺炎、またそれが疑われる患者への対応をどうするか、院内感染の防止策の構築ということになろう。大分医療センターではドアノブ消毒などは行っていたが共用PCのキーボードなどから感染が広がったという。回復期や慢性期を主とするケアミックス病院ではリハビリなど感染リスクの高い現場が多く苦慮している。永寿総合病院院内感染の調査レポートでは、職員休憩室などバックヤードの「三密」状況、指先衛生の不徹底などが指摘された。バックヤードの「三密」は、一般企業に比して職場環境整備を怠ってきた付けが回ったという感がする。品質管理という問題である。

 現下の問題に加えて、経営陣に迫りくるのは資金が回るかどうか、についてである。医療という事業は、継続性が強く望まれる。医療機能については社会状況によって変わっていくが、社会に良質な医療を提供し続けるという使命は変わらないものとしてある。だからBCP(事業継続計画)策定が重要なのであり、また事業を回していく血液として資金確保が経営には欠かせないのである。資金問題に対する準備はできているだろうか。経営陣と事務局は、覚悟を持って対応しなければならない。 

 非常事態ということで職員らの負担は増している。いつまで緊張感が持続するだろうか。さすがにテレワーク導入は難しい職場であるが、事務局など可能な部署もある。会議などはオンラインで実施することはできるし多くの病医院ではそうしている。医療者への負担軽減を図ること、不安解消に努めること、一息つける機会の提供などを考えるべきであり、例えば、多くの職員がインスタント麺などで食事を済ませている中、そうでない食事の提供なども考えるべきと思う、医療や療養の環境だけを考え、職員の働く環境整備を二の次にしてきた反省をしなければならない。

 急速に浮上するオンライン診療についても考えてみたい。「高齢者の患者さんはデジタルに慣れていない」、「診療報酬が低い」などと、できない理由を並べ立てていないだろうか。オンライン診療は、はっきり言って国策である。コロナ感染拡大は患者の受診行動を大きく変えていく可能性がある。テレワークが一気に普及し、外回り営業のスタイルが一変しそうである。同じことが診療の現場で起こらないと言えるだろうか。この際、一気に攻めていくべきではないだろうか。高齢者は「できない」と決めつけるのは正しいだろうか。LINEを普通にこなす高齢者は多いし、家族と同居する高齢者は家族の、施設で暮らす高齢者は、施設職員がサポートできる。状況変化に即応するのが「経営」というものである。

 これらに取り組んでいくのに、何を考えなければならないか。もはや個別医療機関が、単独でやっていけることではないと考える。コロナ感染拡大がなかったとしても、超高齢化時代の経営は先行き厳しいものがある。地域医療においては「競争より協調を」と国は地域医療連携推進法人制度というものをつくった。それは医療法人経営者らに「経営権を取られるのではないか」という疑心を持たせることになって、当初は上手くいかなかった。ようやく人口減少という現実に向かい合わなければなくなった地方から成果が出始めている。山形県の「日本海ヘルスケアネット」などがそうである。そこにあるのは「緩やかな」つながり、例えば人材確保などの機能別の連携、協働の動きである。大都市部でも動きは出始めている。

 「医療経営」は厳しい課題を抱えることになった。我々が考えなければならないのは、個別の経営権を尊重しながらも、それでも医療の世界に「経営」を持ち込み、それを徹底させるために、個別の部分最適ではなく、地域全体最適を考えて、コロナ感染拡大とポストコロナに向かい合って行かなければならないということである。地域における連携と協働の充実以外に生き残る道はないと考える。手を組んで行かなければならない。そう考える。

ページの上へ