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コラム
 
ものがたりの街構想
一般社団法人ものがたりの街
代表理事 佐藤 伸彦 氏

■ものがたりの街構想
 理想とは、現実に対するアンチテーゼ(反対意見)を具現化することだと考えています。単に不条理な社会に対して何らかの不平不満を訴えているが1ミリも現実が動かないことは、理想を追いかけていたのではなく単なる愚痴を言い続けてきただけなのかもしれません。 2004年にナラティブホーム構想を提唱し、2010年3月にものがたり診療所を開設しまずは第一歩を具現化しました。拙書「ナラティブホームの物語(2015、医学書院)」の中でその時の想いを以下のように書いています。(p181−185)
 「終末期の家族と患者とがその物語を語り続け、安らかな最終章を迎えることができる空間を目指した」 そこから10年。がん、非がんに限らず、色々な方の十人十色の終末期をひたすら、その人のものがたりを大切にして来ました。終末期の対応に関してはそれなりの自負もできました。その間に在宅医療や看取りという言葉、ものがたりやナラティブという言葉もそれなりに浸透してきております。在宅医療を行なっている仲間も増えました。何とか経営も成り立って40人あまりのスタッフに給与を払うことができています。このままやって行けばきっと多死社会を乗り越えることができるとさえ思っていました。
 しかし現状維持は相対的には後退していることに気づけないでいました。
私達は、先を見て歩き続けなくてはならない使命がある。そうでなければ10年後のものがたりはない、そんな中からものがたりの街構想が生まれ、昨年11月に完成することができました。
ものがたりの街は一言で言えば私の想うところの理想の追求です。

時代が求める形を
 太田地区は、砺波市内で近年まで国民健康保険立の診療所が残っていた場所です。その場所に地域医療の再生を試みるために「ものがたりの街」を作ったのは、今という時代は地域の崩壊の真っ只中にあると言っても過言がないからです。
私が師と仰ぐ民俗学の権威・新谷尚紀先生からは、「時代というのは誰かが出てくるから変わるのではなく、変わろうとしているときに必要な人たちが出てくるから変わる」とのご指摘を受けました。密にならない広さを備え、近場で近所の人たちと交流できる場を持たせた「ものがたりの街」は、時代が求めている形なのではと思っています。

プラットホームから未来が始まる
 「ものがたりの街」では、あえて老朽化した2つの蔵を残しました。それは太田を象徴する風景を残すためです。地域の皆さんに対して、心理的に安心できるものを作りたいという思い、お互いに思いやりを持って信頼関係を築きながら一緒に作っていきましょうという思いも込めています。
とはいえ、「ものがたりの街」は、あくまでも通過点であり、プラットホームです。ここからみんなで一緒に作っていって次の世代につなげていくことが重要だと考えています。10年後、20年後の太田地区や社会に、「必要だったんだね」と言えるものを作り上げていきたいと思います。
ものがたりの街のなかにあるいろいろな建物と役割について簡単にお話をします。

修養棟
 修養とは最近は聴き慣れない言葉ですが、辞書を引くと「知識を高め、品性を磨き、自己の人格形成につとめること」とあります。知性や知識に優先して道徳の重要性を説いています。それに対して似た言葉に「教養」がありますが、こちらは、伝統的に西欧の高等教育で扱われてきているリベラル・アーツに相当するものとしてとらえられています。教養は試験で計れる が修養は計れないとも言われています。
 今の時代だからこそ、ものがたりの街の中に修養棟を作りました。
 インターネットを利用して即座に多くの知識を得る事が可能になりました。何を知っているか(教養)が大事であった時代から、何が問題を見つけ自分を成長させる能力(問いを立てる能力)が大事な時代に移り変わろうとしています。今年に入っての新型コロナ感染症はさらにそれを加速させています。それに役に立つ場所を作りました。

日めくりショップ棟
 暦のようにお店が毎日毎日違っていく事をイメージして「日めくりショップ」としました。
自分の得意としている事でお店を持ちたいと思っている人は多いのではないでしょうか。ネットショップでない限りは、店の賃貸料を払いながら収益を上げるには本業以外の事があまりに多すぎて、それに費やす時間もなく、大半の方が躊躇したり断念しています。
 しかし、地域には、達人がたくさんいます。また、若い頃にやりたかったけれど、若いうちは時間もお金もなかったし、何しろ家族を養い、育てることに精一杯で諦めてしまった事が皆さんにも一つや二つはあるでしょう。
 蕎麦打ちをしてみたかった、好きな手芸のお店を持ちたかった、ケーキ、お菓子作りが得意で商品として出してみたかった、コーヒーを本格的に入れるバリスタになりたかった、などなどです。
 「幾つになっても、やりたい事を、あきらめるな」
そんな方々を応援するための場所です。

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