少子高齢化と人手不足が深刻化する中、医療現場でも業務の効率化と働き方改革が急務となっています。
特に医療従事者の過重労働は長年の課題であり、現場を支える人材の確保・定着のためにも抜本的な改革が求められています。そこで注目されているのが、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。なかでも、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入は、業務負担の軽減と医療の質の向上の両立を可能にする具体的な手段として期待されています。
2024年度の診療報酬改定では、「医療DX推進体制整備加算」が創設されました。これは、電子カルテの標準化やデータ利活用体制の構築など、デジタル基盤を整えた医療機関を評価する仕組みです。国としても、医療DXによる変革を後押しする姿勢を明確にしています。加えて、オンライン資格確認やマイナ保険証の活用促進も、医療のデジタル化を後押しする要素となっており、制度と技術の両面から改革が進められています。
AIは、データ分析、パターン認識、文章生成、音声・画像認識といった領域に強みを持ちます。
医療現場では、診療記録や退院サマリの自動作成、患者データの解析、診療報酬の適正算定支援などに活用されており、従来手作業で行っていた作業が効率化されています。音声入力による記録作成や画像診断支援への活用も進められ、スタッフの心理的・時間的負担を大幅に削減し、より多くの時間を患者ケアに充てられる環境が整いつつあります。
AIは“人の判断を支えるツール”として、人間の業務の補完役にとどまらず、時に新しい発見や診断精度の向上にも貢献しています。
RPAは、定型的な事務処理や複数のアプリケーションをまたぐ作業の自動化を得意とします。
電子カルテと検査システムとの連携や、予約情報の入力、帳票の出力など、細かく煩雑な作業を正確・迅速に処理できるため、ヒューマンエラーの防止にもつながります。従来であればシステムベンダーによる高額な開発が必要だった業務も、RPAを活用することで手頃かつ柔軟に自動化できる点は大きな利点です。夜間や休日でも止まらず作業を続けられることから、限られた人手のなかでも安定した運用が可能になります。
「医療DX令和ビジョン2030」では、患者中心の医療サービスの実現が掲げられています。AIやRPAの導入は、その実現に向けた第一歩です。診療のスピードと正確性が向上し、医療従事者の働き方にも変化が生まれています。単なる効率化にとどまらず、現場の人材の働きがいを高め、結果として患者満足度の向上にもつながっていくでしょう。
医療DXの推進は、医療現場の未来を左右する重要なテーマです。今後、こうした取り組みがさらに広がり、地域差のない、持続可能で質の高い医療体制が全国に構築されていくことが期待されます。