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コラム
 
 街角のホスピスめざして     
   林山朝日診療所
理事長 梁 勝則氏 

 先進国の中で日本は最も在宅での看取りが少なく、病院死が圧倒的に多い。しかしどうせ死ぬのなら最後は住み慣れた自宅で過ごしたいというのは多くの人の素朴な願いである。 
  
 私たちは平成4年4月に在宅での看取りを行うため神戸市長田区に「はやしやまクリニック」を設立し往診や訪問看護を始め、年間10名程度の方を在宅で看取ってきた。しかしながら、半数の在宅患者は病状や介護問題のために一般病院や遠隔のホスピス病棟に入院しそこで人生を閉じた。ホスピス病棟は末期患者の療養環境としては最適であるが、神戸市西部にはなく、患者は北区や灘区、東灘区など遠くのホスピスに入院せざるを得なかった。

 そこで平成16年4月に元のクリニックから2キロ北の神戸市須磨区に分院を設立し、19ベッドの有床診療所ベースのホスピスをスタートした。分院はグループホーム(認知症対応型共同生活介護施設)、認知症専用デイサービス(日帰り介護)、訪問看護ステーション、訪問介護ステーション、居宅支援事業(ケアマネジメント)などの部門を合築したいわゆる小規模多機能施設である。

 現在希望の家では年間約40名の方を在宅で看取り、約120名の方をホスピス病棟で看取っている。当法人においてホスピスケアの中核的存在となって活躍しているのは看護職であり、筆者は医師として看護職のサポートと最終的な当事者責任を果す役割にある。

 私たちのめざしているのは「街角のホスピス」である。つまり様々な病気や障害で人生の「みぎわ」を迎えたとき、その人が住みなれた自宅かあるいは自宅のすぐ近くで、希望に応じて在宅でも入院・入所でも自由に選択できるような支援を目指している。日本のホスピス緩和ケア病棟は終末期患者の入院看取りに専心していることが多い。入院は予約制で数週間から数ヶ月待たされるので、一度入院するとよっぽどのことがなければ次の入院が保障されないので退院を患者から申し出ることは無く、死亡まで入院し続けることになる。その結果平均入院期間は1ヶ月〜2ヶ月の長期になり、その患者が死亡退院してからところてん式に次の入院を受け入れることになる。従って入院予約をしても過半数以上の患者は転院前に一般病院で死亡するのが常態となっている。

 このような事態が起きている要因はホスピス病棟の多くが郊外にあることや在宅医との連携が希薄なことなどが主な原因であるが、実は本来の意味でのホスピスケアは入院と在宅がシームレスに提供され、患者は希望に応じて行ったり来たりすることであり、継続ケアと言う。事実、シシリーソンダースが始めたイギリスのセントクリストファーホスピスは48床の病床に対して500人の在宅患者を抱えている。今年の2月に見学に行ったオーストラリアの聖セイクリッドホスピスでも入院の患者のほとんどは末期の看取りか床状緩和目的であった。医師、看護師という高い社会コストを要するホスピス病棟は、末期患者が長期に過ごす居住生活の場所であるよりも必要に応じて短期に床状緩和や看取りを行うほうが、より多くの患者に益するし、また実効性も高いように思う。

 次回は有床診療所ホスピスについて述べる。
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