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コラム
 
 再び「人」を考える 
    メディサイト 松村眞吾


 以前、「人」がポイントであると書いた。あれから様々な医療現場、介護現場を歩き回ってきた。いよいよ確信は深まるばかりだと言っておこうか。ファンドなど金融機関の人々が集まった会合で講演を頼まれたことがある。テーマは医療機関の資産評価について。不動産を小口に分けて証券化することが、かなり拡がってきた。オフィスビル、賃貸マンション、商業施設などが何百口と細かく分割されて、金融市場で売買されている。医療機関だって例外ではないはずだというわけである。私はこう言った。「そこで働く人が動機付けられる仕組み、特に医師、看護師ら医療者をキャリアアップさせる仕組み、裏方である事務職を動機付ける仕組みを持たない医療機関は、どんなに立派はハードを持っていても単なる「箱」に過ぎない」と。いろいろ議論はあったが、最終的に参加者は納得した様子だった。

 あるクリニックでスタッフが全員退職という事態に陥った。珍しいことではない。多くの開業医が、経営の悩みの半分以上が人事・労務の問題だと言う。問題は、そういう事態になっても院長が状況を理解できていないことが珍しくない、ということだ。院長は、自分がどれだけ働いているかを強調する。身を粉にして働いているのに、スタッフは勝手だと決め付ける。そういう医療機関に限って雇用契約も未整備で残業に対する不満が溜まっている。職場の人間関係などが引き金になって不満が表面化する。臨界点に達した時、スタッフ全員退職などの”事件“は起こる。

 そのクリニックも例外ではなかった。院長ははっきりと知るべきである。スタッフは、院長がどんな医師であるかがポイントであると言うけれども、本当にそれを信じてはならない。先ず時間と金、そして「学習と成長」が関心事である。それが満たされて、初めて院長の理念や医師としての腕が彼女彼らを動機付ける。いかに優れた医師であっても、働く仲間であるスタッフを尊重する姿勢を見せなければ、あるいは法規を守って、雇用契約を締結、遵守する経営者でなければ、誰も院長を尊重しない。件のクリニック院長はその理解がなかった。

 医療機関は医師を真ん中にした資格職中心の「階級」社会である。特に事務職は軽視され勝ちだ。リハビリスタッフの中にも「序列」がある。時給ではっきりとしている。
だからこそ院長への「尊敬」や単なるやり甲斐でスタッフを動機付けられると勘違いしてはならない。スタッフにとって、尊重してもらうこと、その証拠として時間と金のルールを守ってくれること、より良いキャリアを目指す仕組みがあることが必要なのである。
医師の中にだって「序列」はある。キャリアップを設計できない(その仕組みに乏しい)公立病院に医師不足が深刻なのはある意味、当然のことである。

 「人」の問題の根本は信頼関係である。その第一歩はルールを作って、それを守ることから始まる。日常的に積み重ねていかなければならない。例えば、開業しようとする時、資金作りと物件探しばかりに気を取られていてはならない。

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