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コラム
 
 医療安全のこと 
    メディサイト 松村眞吾

 前回、「人」の問題について書いた。これに深い関係があるのが医療安全のことだと考える。
三重県伊賀市における不潔な環境下での点滴液作り置きによる医療事故のことは大きな問題となった。院長の責任はもちろんのこと、多くの看護師が関与していたことが衝撃的だ。弛緩(気の緩み)があったとしか言いようがない。多くのクリニックにおいて、インフルエンザの予防接種を嫌がるスタッフがいる。それを黙認する院長がいる。予防接種は医療者として最低限のマナーではないか、とはあるベテラン看護師の言葉であるが、私も同感である。緊張感のない院内風土に医療安全に取り組む積極的な空気はない。

 医療安全の教科書には、医療事故があった時には必要に応じて後方病院に搬送すべきであり、日頃から後方病院との連携を作っておくべしとある。連携の中身についての詳述はない。医局トップと連携室に話をしておけば良いのか?あるクリニックで日帰り手術の折に事故があった。後方病院に緊急搬送して事なきを得たが、それは単に連携を組んでいたからではない。私はそう評価している。つまり、日常的に関連診療科の医師や看護師らと顔を合わせて信頼関係を築いてきたことが、スムースな緊急対応を可能にしたと考える。もちろん後方病院の医療スタッフは患者さんを差別しない。しかし、一を言って十を知ることが出来るようなコミュニケーションがあってこそ、迅速・的確な対応がある。開放ベッドを利用して連携病院に手術に出向くある開業医は、院長から事務まですべてのスタッフと信頼関係のある病院でないと手術など出来ないと断言した。後方病院に出かけて行って、たまには看護師らとも世間話をすることも大事だ、とは教科書に書いていない。

 クリニックレベルでも医療安全への取組みが義務化されて2年目を迎える。医師会からの雛形を、そのままコピーして安全菅理指針、院内感染防止マニュアルを整備しましたとするところも多い。マニュアルを作ればお終い、ではもちろんない。本気がなければ機能しない。院長に本気があっても院内に「本気」を作り出す努力がなければなきに等しい。で重要なことは「人」と向き合うことである。なかなか出来ることではない。スタッフとの関係を曖昧のままにしていては、安全を説いても誰も聴いていない。真っ向勝負が必要な世界であると私は思う。お互いを尊重し合う空気がなければ出来ないことだ。それでも医療の安全は、絶対に実現しなければならない。だから「人」がポイントなのである。

 コンサルタントとしてだけではなく、当事者として医療安全のことで体制作りに悩んでいる。教科書には一応、すべてが書いてある。問題は行間のことなのである。お分かりだと思うけれども・・・。

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