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コラム
 
 チーム医療の再認識
  〜専門分化する医療へのコメデイカルとの協調〜
   元神戸大学副学長
石川 斉 氏

 当初は医師一人と家族労働で始まった明治初期の医療行為は、労働手段の変化、改良につれて看護婦を必要とし、病院医療の拡大に繋がって来た。ヨーロッパでは近代的な病院が出現したのはフランス革命後であり、臨床医学の専門分化が必然的に総合病院の要求を次第に大きくしてきた。この意味では我が国の医療における専門分化はかなり遅れていた。

 しかし、戦後まもなく日本においても急速に各種のコメデイカル職種が誕生し、今日の大病院では日常的に外来患者とも入院患者とも接点のない職員が存在し、病院の事務や清掃、厨房などには外注によって運営されて全くいるのが一般的になってきた。このため、はじめて病院を訪れた患者にとっては一体誰に相談すればよいのかさえ明確でない場合がある。また大病院で一度成立した医師と患者の関係はしばしば一方的に変更され、医療の連続性は一枚のカルテによって見せかけのごとく維持されているにすぎない状況も生まれて来ている。すなわち心理的、人間的側面は空洞化されていることを意味している。

 医療専門職の増加は疾病構造の変化、患者の要求拡大に伴うものであるが一方では、分業は専門化とともに、労働の分割をも意味する。このことがチーム医療論を複雑化させているのもまた、現実なのである。

 専門分化に伴う問題では、診療報酬制度と専門分化の矛盾がまず挙げられる。専門医や指導医の資格を取得しても診療報酬は出来高払いで未経験者と差がない。次に患者との触れあいのない職種があり一人の患者についての認識が職種間で共通しないことが起こりうる。さらに厄介なのは、専門性が強まるほど各種の患者対応の特異性が前面に出て対立する場面が増えることや、専門を口実にして自ら専門以外のところに手を出さない、或いは、無視するといった事態も生じている。残念に思うのはいわゆる境界領域に関して業務の押し付け合をするといった場面に遭遇することである。

 したがって、職種間で要求されるのは、他の職種の専門性を理解するとともに、職種間の連携機能の必要性を深く認識しあうことが重要である。その上でチーム医療の正しい発揮には、各職種の技術水準が平均して高いこと、患者を中心にして各専門職が機能的に働いていること、そして専門性や独自性は尊重しながらも最終判断は医師の総合判断として統一して進めることであろう。    
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