家庭医のクリニックづくりと、そのネットワークを支援しています

ホーム 会社概要 事業概要 お知らせ コラム リンク
コラム
 
医療機能を考える−地域の中小病院が生き残る道
メディサイト 松村 眞吾

  地域医療構想の策定が進んでいきたようだ。急性期病床の削減が盛んに言われている。病院経営者としては不安な気持ちになったりもするだろう。国の方向性は、今までになく明確である。「病院完結型」から「地域完結型」への転換は、現実的には多くの困難がある。それでもなお、病院から地域への流れは変わらない。まず財政上の問題、そして何よりも人の問題である。介護事業関係者は人手不足地獄の最中にある。医療関係も人材がどんどん足りなくなっていっている。入院患者の高齢化と重度化は進んでいるし、団塊世代の超高齢化は多くの人々の想像を超えるものとなる。国はかなり焦っていると考える。

 在宅医療より、病棟で診療して回る方が、よほど効率的だという意見がある。本当にそうだろうか。2025年からピーク時に入る医療ニーズは、2035年にどうなっているか。新しく建てられた病院は、償却は済まない内に、銀行からの借金が返し終わらない内にガラガラとなるだろう。厚労省の「保健医療2035」を読んでみたら良い。医療システムの輸出が論じられている。医療供給が過剰となるからだ。何よりもQOL(生活の質)低下を招いてまでも入院治療を推し進めるべきなのか。患者本位医療ではないし(高齢者は「自分らしく」生きたいと思っている)、QOLを軽視した入院治療が、症状の悪化を招くということを知っておくべきだろう。病院完結型医療は資源の無駄遣いになる、と少なくとも国は考えているし、急性期中心の病院経営は、やがて困難化することは間違いない。

 急性期入院に拘って、地域中小病院の明日はあるだろうか。急性期から降りると医師や看護師が確保できなくなるという声が多いが、急性期のままでも医師、看護師の確保は困難になっていくだろう。高度急性期病院などに医療職は集中化していく。発想を転換しなければならないだろう。来年3月に策定される地域医療構想には問題が残るだろう。元になるデータ(地域レセプトデータであるNDB=NationalDataBaseなど)も分析次第だが、どこまで信頼できるか。それでも急性期を減らし、回復期を増やし、在宅医療を増やすという方向に変わりはない。

 回復期と在宅充実。プラスして主治医(かかりつけ医)機能の充実強化。これは地域中小病院にとっての好機だと感じるがどうだろうか。総合診療医の養成は進んでいないかもしれない。それでも新しい専門医制度の中で2017年度より総合診療専門医制度も始まる。高齢社会とは、治療・療養と生活が一体の世界を意味する。完治して日常生活に帰るのではなく、病気と付き合いながら生きていく社会である。そういう社会で身近な「あなたの専門医」としての主治医機能、生活中心を支える在宅医療は、医療の一方の主役となっていく。

 急性期から患者を受け入れての回復期医療提供、診療所と連携しての病院在宅医療、これも診療所と連携しての主治医(かかりつけ医)機能は、診療報酬において重点化が始まった。地域包括ケア病棟も、やっと普及し始めた。法人内転院だけではなく、他の病院からも積極的に患者を受け入れる病院も現れ始めた。次回(2016年)改定を経て、2018年の介護報酬との同時改定で診療報酬の内容も、それを加速する内容となっていくだろう。介護事業なども手がける地域中小病院は、徹底的に地域密着で医療機能を提供していくべきではないだろうか。

 急性期から地域包括ケア病棟を中心に回復期と在宅医療、主治医(かかりつけ医)機能を強化することは可能だと考える。地域医療に徹底した病院には、総合診療医を志す医師らも、訪問看護を目指す看護師も、ソーシャルワークで貢献しようというMSWも集まってくるだろう。急性期でなくなるから人材を得られなくなるのではなく、提供医療の機能が見えていないから人材が集まらないということになるのだと考える。考えようによって、これから
は地域中小病院の出番である。24時間対応を果たせる地域医療機関はどこにあるのか。他にない。

ページの上へ