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コラム
 
 医師に病気を治す義務があるか   
   アンサー法律事務所
弁護士 永井 幸寿 氏 

 医療事件の依頼があった場合、その8割〜9割は、訴訟などの事件にならずに相談で終わってしまいます。相談で終わる事例の多くが、医師に過失(不注意)がない事例です。例えば、患者が「医師の治療を受けたのに病気が悪化した」と訴える場合があります。その場合、事実を聴取して、カルテなどを取り寄せ、文献や協力医師の意見などを聞きますが、治療した医師に過失がない場合が大部分です。

 何故こうなるのでしょう。患者は医師には「傷病を治す義務がある」と思っているので、治療を受けたのに症状が悪化したりすると、医療過誤だと思ってしまうのです。これは、その前提として、「医師は全ての傷病を治すことが出来る」という思い込みがあります。その結果「医師には全ての傷病を治す義務がある」と考えるわけです。しかし、医師には全ての傷病のメカニズムがわかるわけではなく、したがって全ての傷病を治すことは出来ません。その結果、法的に医師には「傷病を治す義務」というものはありません。

 「お医者さんには病気を治す義務はないんですよ。」こう言うと大抵の依頼人は驚きます。「では、お医者さんとは、何をする人なんですか?」これは、医師には医療契約に基づいて、患者に対してどんな義務があるかという質問です。医師に課せられているのは、治療当時の医療水準に従った医療行為を行うという義務です。従って、この医療水準に従った医療行為を行っていない場合は過失があますが、行ってる場合はたとえ患者の傷病が悪化しても、又不幸にして死亡しても過失はありません。

 むしろ、医療事件で問題なのは、医師が医療水準に従った適正な治療を行っていても、医師の患者に対する不用意な言動が医療紛争を誘発してしまうという事です。「やることはやっている。厭ならよそに行け(外科)。」「この患者は神経質であり、心に問題がある(循環内科)」等は、いずれも適正な治療行為を行っており、本来事件になるべきではなかったものが、医療過誤事件になってしまったものです。医師は患者の身になって言動を多少気にするだけで、多くのトラブルを未然に防げるのではないかと思います。
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