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コラム
 
「地域共生社会をめざすための地道な取組みを」
社会福祉法人 ライフサポート協会
法人本部 事務局長  石田信彦

 国は昨年『「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部』を立ち上げ、今国会では「地域包括支援システムの強化のための介護保険法一部改正をする法律案」が上程されました。4 月 18 日衆議院本会議で可決され、参議院に送付されました。今のところ国会審議にしても報道された内容にしても「現役世代並み所得があれば、介護保険の本人負担を2割から3割に引き上げる」点に注目がいき、肝心の理念とするところの「地域共生社会」のイメージはなかなか共有されていないというもどかしさを感じています。

 なお、今回の法案審議の中では注目される答弁もありました。4 月 5 日に開催された「衆議院厚生労働委員会」の中で、塩崎厚生労働大臣は、「地域共生社会と地域包括ケアシステムは別概念であり、地域包括ケアシステムが高齢期のケアを念頭に置いたものに対し、地域共生社会は必要な支援を包括的に提供する考え方を障害者、子どもなどへの支援や複合課題にも拡げたもので、地域包括ケアシステムの上位概念である」と答弁したとのこと。 
 そういう理解に立てば、市町村 による地域住民と行政等との協働による包括的支援体制作りや、地域福祉計画の策定の努力義務化、 さらには高齢者と障害児者が同一事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉制度に新たに「共生型サービス」を位置付けるといった内容も盛り込まれています。ただ、勘所はおそらく医療・福祉に従事する私たちの側ではなく、本来「地域に住み」「共生社会を築く」その主役は地域住民にあるということです。主役が「我が事」と思わないまま、知らぬ間に制度設計だけが進むようでは、成功は望めません。
そうはいっても、手をこまねいているわけにもいかないのも実際です。すでに以前から「医療福祉の制度外」で生活困窮の家族や個人がおり、今後も「医療福祉の制度を狭くする」ことで発生するであろう「ちょっと困っている・ちょっと異状を感じている」層をカバーすることが喫緊の課題でもあります。

 大阪市住吉区では区の事業として「地域見守り支援事業」を平成26年から取り組まれており、地域包括支援センターに併設する形でCSW(コミュニティー・ソーシャルワーカー)が配置され、高齢者でもない、障がい者手帳も持たれていないといった方の相談や地域の住民からの相談に応じています。
 私たちの管轄する北地域(人口4万人弱)のエリアでも、親の年金で暮らす息子、崩壊しそうな住宅、DVなどの要因で居所を明かしにくいことで働くことをためらうシングルマザー、50代で失業した方、経済的困窮や疾病や軽度の障害による生活困難・・・といった、どの制度でも対応がされてこなかった事例が年間2500件ほど挙がってきます。半数近くは本人や家族からの相談で、行政や福祉事業所からの相談も含むと8割になりますが、残り2割の中で、近隣住民からの相談も13%はあり、町会や民生委員さん、隣近所の方に見守り支援の協力をお願いすることも大事な活動になります。

 主には生活困窮に関わってですが、直面する課題に即応するために、法人内外のネットワークも駆使します。食料や衣類、家具や家電製品の寄付を募るメールも飛び交います。遺品整理の会社や、「ふーどばんく」といったスーパーからの食材を生活支援に活用するNPOとのつながりを活かして、その日のうちに支援物品を調達することもあります。

 福祉専門職の役割は、孤立死や地域からの排除を防ぐような、医療で言えば「急性期」のところに重点がありますが、その後の「経過観察」については地域住民の協力も必要になってきます。ちょっとした見守り活動や声かけ、異状時に伝えていただけるような関係づくりも重要です。同時に本人の孤立状態を参加につなげる機会として、介護事業所も協力しての「お食事会」や「ふれあいイベント」といった企画を取り組み、本人にも呼びかけ、地域の方にも参加を呼びかけるなどの形で、意図的につながる機会をつくることから、地域主催の活動ができるように事業所もお手伝いすることも必要と考えています。

 地域住民が「我が事」として地域福祉に参加するには、まだまだ大きな壁を感じますし、法律や行政主導で変わるものではないですが、福祉職員は本人と地域、本人と医療や福祉サービス、さらには地域住民同士の媒介役を担いながら、壁を低くしていくことが求められています。同時に縦割りでは対応できない課題に「丸ごと」対応できるような幅の広さも求められます。
 私たち自身も専門間の分断を超えた「共生」が求められているのですね。

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